サッカーの話をしよう
No.1158 シュート練習はペナルティーエリア内から
「これはね、ここから中には相手を入れてはいけないというラインなんだ」
1987年から日産(現在の横浜FM)で活躍し、後に監督も務めたオスカーは、日産の若いDFたちにこう説明した。彼が指し示したのは、ゴールから16.5メートル、ペナルティーエリアのラインだった。
「この中からシュートを打たれたら失点の可能性が高くなる。だから絶対にこの手前で止めなければならない」
26シーズン目のJリーグが開幕した。第1節の9試合で生まれた得点は19。1試合平均2.11ゴールは、昨年の全306試合での793得点、1試合平均2.59ゴールと比較すると少し寂しかった。
Jリーグでは試合前にピッチ上で20~30分間のウォームアップが行われる。やり方は千差万別だが、どのチームもその締めくくりは1人何本かずつのシュート練習ということになる。だがこれがなかなかはいらない。10本のうちGKを破ってゴールにはいるのは1本程度。半数の5本以上がゴールの枠を外れ、枠内に飛んでも5本中4本はGKに止められる。
失礼ながら、「シュートを外す練習をしているのか...」と、見るたびに思う。
相手の妨害がある「試合」ではなく、妨害のない練習なのになぜはいらないのか。どのチームもほぼ例外なくペナルティーエリアの外からばかりシュートしているからだ。
日本サッカー協会が2014年のワールドカップ後に発表した『テクニカルレポート』に、2002年から4大会分の「得点となったシュートが打たれた位置」に関するデータがある。4大会全624ゴールのうちゴールエリア内が23.7%、ペナルティーエリア内が53.4%。派手なスーパーゴールが多いという印象があるワールドカップでさえ、ペナルティーエリア外からのシュートで得点になったのは15.4%に過ぎない(7.5%はPKによる得点)。ちなみに今季のJリーグ第1節の得点は、それぞれ15.8%、68.4%、10.5%、5.3%。やはりペナルティーエリア内からのものが圧倒的に多い。
ならば、シュート練習はペナルティーエリア内からいかに決めるかに重点を置くべきだ。ロングシュートが必要な場面もあるが、エリア外から力いっぱいける練習ばかりでは得点力は上がらない。
オスカーが話したように、得点することとは、ペナルティーエリアにはいってシュートを打つことだ。いかにエリア内でのシュートの状況をつくるかはチームの攻撃の最重要課題であり、そのシュートを得点に結び付けるのは個々の選手に課せられたテーマと言える。そこに、適切なシュート練習の必要性がある。
(2018年2月28日)
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