サッカーの話をしよう
No.1175 1対1で仕掛けろ
現代のサッカーでは、1対1の状況ではボールをもった選手のほうが有利とされている。だが日本選手は...。
異例の早さで日本代表新監督の就任記者会見を行った日本サッカー協会。監督会見に先立ち、田嶋幸三会長と関塚隆技術委員長がワールドカップ・ロシア大会の総括と4年後に向けての課題を語った。
従来はワールドカップの総括と分析を日本協会が発表するのは大会から半年近くたってだったから、就任会見だけでなく大会総括も「異例の早さ」だったことになる。
そのなかで、関塚委員長は状況に応じた攻撃と守備ができていたと評価した。攻撃面では、ボールを奪ったらまずカウンターを狙う。それができないときにはしっかりパスをつなぎ、人数をかけた攻撃で相手ゴールに迫る--。
田嶋会長と関塚委員長が話したように、総じて日本の戦いは見事だった。とくにベルギー戦は、日本サッカーの歴史に残る最高のパフォーマンスだった。しかしそうした試合のなかでも、日本サッカーの重大な「欠落部分」が見えていたように、私には感じられた。「1対1で仕掛ける姿勢」の希薄さである。
とくに顕著なのがサイド攻撃だ。パスを受けたとき、日本選手は相手が1人立ちふさがっただけですぐに後ろを向き、バックパスしてしまう。このワールドカップでもそうした場面は頻繁に見た。相手にとっては縦に仕掛けられるのがいちばん怖いのに、勝負に出ないのだ。その結果、日本は相手にやすやすと守備組織をつくらせてしまう。
こうした傾向が、日本代表だけでなく、年代別代表にも広範に見られ、若い代表ほどその傾向が強いのは、育成システムに問題があるからではないか。「賢い」選手をつくろうとするあまり、「自分のところではボールを失いたくない」というメンタリティーの選手ばかりになってしまったのではないか--。
ボールを受けるときには、後ろを向くフェイントをかけていきなり前を向き、相手を抜き去るというプレーが最もチームのためになるのに、多くの日本選手は、前を向くフェイントをかけて後ろにボールを止める。相手選手には、後ろを向いた選手など少しも怖くはない。
世界に対抗するには、私は何よりも日本のサッカーがよりアグレッシブ(積極的)にならなければならないと思っている。コンビネーションも大事だが、少しでもスキを見せれば果敢に前を向いて仕掛けてくるという「恐れ」を相手にもたせない限り、相手の守備に破綻は生まれない。
森保監督の日本代表は、ぜひ果敢に1対1で勝負するチームになってほしい。
(2018年8月1日)
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