サッカーの話をしよう
No.1178 『6+5』を譲るな
「毎日50の新しいアイデアを考えつき、そのうち51が愚にもつかないもの」
英国の名記者グランビル氏からそう揶揄されたのは、国際サッカー連盟(FIFA)のジョゼフ・ブラッター前会長である。しかしブラッター氏が提唱し、一時はFIFAがルール化した(わずか2年で廃止された)「6+5ルール」は、非常に重要な案だった。おそらく、「52番目」のアイデアだったのだろう。
「クラブの試合では、その国の国籍をもち代表に選ばれる資格をもった選手が、先発メンバーに少なくとも6人はいなければならない」
このルールは、クラブのサッカーはその国のサッカーの発展に寄与するものでなければならないという理念に基づいている。欧州連合の法律に反する可能性があること、何より欧州のビッグクラブが反対したことで葬り去られたのが残念でならない。いまではイングランドのクラブにイングランド人がひとりもいなくても誰も不思議に思わない。
ところで、Jリーグでも国際化が進んでいる。8月19日の湘南×神戸では、神戸が先発で4人、交代で1人の外国籍選手を出場させ、一時は5人の外国人がピッチ上にいた。
日本サッカー協会の規約では、1チームが登録できる外国籍選手は5人までで、そのうち1つの試合に出場できるのは通常3人までである。しかし現在のJリーグでは、外国籍選手3人に加えてアジアサッカー連盟(AFC)加盟国の選手1人、さらに提携国選手は制限なく出場できるというルールになっている。
神戸の例でいえば、イニエスタ(スペイン)とポドルスキ(ドイツ)に加え、この日は出場しなかったブラジル人FWのウェリントンが「外国籍選手」にあたり、GK金承奎(キム・スンギュ=韓国)が「AFC枠」、そしてアフメドヤセル(カタール)とティーラトン(タイ)が「提携国選手」となる。現行のルールではこの6人が同時にピッチに立つこともできるのだ。
提携国とは、Jリーグと提携を結んでいるリーグのことで、現在はタイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、インドネシア、マレーシアの東南アジア勢に加え、中東のカタールが含まれている。これらの国の選手は、「外国籍選手ではないものとみなす(Jリーグ規約第14条)」となっており、タイ代表選手を11人並べることも可能だ。
Jリーグの設立の第一の目的は日本のサッカーを強くすることだった。その狙いは見事に成功し、日本代表は1998年以来6大会連続でワールドカップ出場を果たした。しかしその道がまだ半ばであるのは紛れもない事実だ。少なくとも「6+5」は譲ってはならない線ではないだろうか。
(2018年8月22日)
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