サッカーの話をしよう
No.1180 代表にきたらチームで戦う
「言葉」でサッカーの試合を勝つことはできない。走り、戦い、冷静にそして的確にプレーすることだけが、勝利をもたらしてくれる。
しかしときに、ひとつの言葉がチームの方向性を決め、成功への重要な指針となるときがある。日本代表監督に就任したばかりの森保一監督はそんな言葉を発信する。
「日本代表に選ばれるまでが競争だと思う。いったん集まったらチームとして戦っていこうと僕はとらえている」(『日刊スポーツ』より)
U−21日本代表を率いて戦ったアジア大会の決勝戦翌日の9月2日、A代表合宿地の札幌に到着し、新千歳空港で語った言葉だ。
3月まで日本代表を率いたハリルホジッチ元監督は、選手たちに常に「競争」を求めた。チームが伸びるためには個々の選手の成長が不可欠である。同監督の要求は当然だったが、ときにそれは選手たちの意識を過剰に刺激し、チームより自分の「アピール」を優先する選手も見られた。
「サッカーはあくまでチームゲーム」。これが森保監督の重要な「信念」であることは、彼が率いたサンフレッチェ広島の戦いぶりを思い起こせば想像に難くない。日本代表でも、その信念をぶれずに貫くという宣言が、今回の言葉だったと思う。
「U−21(21歳以下)日本代表」と言っても、今回のアジア大会では、その年代の選手を自由に選べたわけではない。1クラブから1人しか選べず、欧州のクラブに在籍する選手は招集できなかった。「寄せ集め」と言っても過言ではないチームは最初の数試合は苦戦したが、準々決勝のサウジアラビア戦以後は見事なまとまりを見せ、決勝戦でも「オーバーエージ」を含むU−23韓国代表を相手にもてる力を出し尽くした。
全員が与えられた役割を懸命にこなし、チームの勝利のためにときに自らの判断で役割を超えたプレーにもチャレンジした。その結果、個々の選手が伸び、チームも大きく成長して銀メダルという期待を上回る結果を残した。
ロシアで開催されたワールドカップでも、好結果の最大の要因は選手だけでなくスタッフも含めて「チーム第一」の姿勢が徹底され、チームが一丸となったことだった。ただ残念ながら、それは日本代表の「常態」ではない。これまでは、個々に違う方向を見て、チームになりきれない試合もたくさんあった。
7日のチリ戦でスタートを切る1922年ワールドカップに向けてのチームづくり。4年間が森保監督の「信念」で貫かれたなら、きっと素晴らしい日本代表ができる。選手だけでなく、日本のサッカーにかかわる全員がこの言葉をかみしめなければいけない。
(2018年9月5日)
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