サッカーの話をしよう
No.1182 CK前の醜いつかみ合いをなくせ
ワールドカップが終わって再開されたJリーグの最初の節(第16節)で、浦和がコーナーキック(CK)からヘディングで3ゴールを挙げた試合があった。長くサッカーを見てきたが、1チームがCKから3点を取った例を見た記憶は、ほかにはない。
日本サッカーの父とも言われる故デットマール・クラマーさん(ドイツ)は、「3本のCK、1つのゴール」とドイツのことわざを引いてCKが重要な得点源であることを強調した。守備が組織化された現代のサッカーでは、CKからの得点は50本に1本程度と言われる。Jリーグ26シーズン全7276試合の総CK数は7万4812本。得点になったのは1779本、約42本に1点の割合だ。
だが、現在Jリーグの試合を見ながら私を必ずいら立たせるのが、このCKだ。
キックまで時間がかかり過ぎる。欧州のリーグではボールが出てから通常20秒ほどでけられるのだが、Jリーグでは平均30秒以上かかる。そしてその一因が、ゴール前の大混乱にある。
守備側はマークしようとする選手を両手で抱え込むようにつく。それを払いのけ、マークから逃げようとする攻撃側。倒れ込む者まで出るキック前の醜いつかみ合いは、とても「サッカー」という競技の一部とはい難い。
こうなると主審はキックしようとするのを止めなければならない。笛を吹き、争いの中心の二人のところに駆けつけ、「注意」を与える。そして自分のポジションに戻ると、また笛を吹き、そこでようやくCKとなるのだ。
1試合あたり平均して10本のCKがある。マークをしない「ゾーン守備」で相手CKに対応するチームではこうした時間の浪費はないが、多くの試合で、ファンはレフェリーが大きな身ぶりで「注意」を与えるシーンを何回も見なければならないことになる。
つかみ合いをしてもCKがけられるまでは「アウトオブプレー」だから「反則」にはならない。FKにもPKにもならない。それを知っているから、選手たちは毎試合同じことを繰り返す。競技規則には「主審は注意しなければならない」などの記述はまったくない。無用な反則を未然に防ぐことで試合をコントロールしようと、主審たちは純粋な「親切心」から笛を吹いて「注意」を与えているのだ。
いっそこの「注意」をやめてしまったらどうか。つかみ合っていてもそのままキックを行わせ、攻撃側の反則ならFKを、守備側ならPKを与える--。とてもシンプルな話ではないか。主審がそうした毅然とした態度を取れば、自然に醜いつかみ合いはなくなる。そして何より、CKを待つ時間も短縮される。
(2018年9月19日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。