サッカーの話をしよう
No.1184 判断の速さが武藤雄樹の力
台風24号が迫るなか開催された9月30日のJリーグ浦和×柏。FW興梠の才能あふれる2本のシュートが浦和に3−2の勝利をもたらしたが、浦和の全3得点を「アシスト」したFW武藤雄樹の活躍も見逃せないものだった。
この試合、武藤は興梠との「2トップ」の一角として先発、0−1で迎えた前半38分に右サイドに流れてパスを受け、走り上がってくるMF長沢にタイミングを逃さずクロスを送って1点目を演出、3分後には興梠へのスルーパスで逆転ゴールを生みだした。そして2−2で迎えた後半36分には、左からのクロスをペナルティーエリア右で受け、正確なクロスを興梠に送って勝利をもたらした。
3−5−2システムの2トップだったが、後半28分に右ウイングバックの橋岡に代えてFW李が送り出されると、以後武藤は右ウイングバックでプレーした。守備で柏のクリスティアーノに対応しながら、決勝点を生みだす攻め上がりを見せたのだ。
仙台から浦和に移籍して4シーズン目。1988年11月7日生まれの武藤は、もうすぐ30歳を迎える。神奈川県中央部の座間市出身。横浜市の武相高校、茨城県の流通経済大学を経て仙台でプロになったのは、2011年のことだった。この年の開幕直後に東日本大震災。武藤は9月にJリーグ・デビューを飾る。
だが武藤がその才能を開花させるのは、プロ5シーズン目の2015年に浦和に移籍してからだった。当時ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が指向していた高度なコンビネーションのサッカーにまたたく間に順応し、欠くことのできない選手になったのだ。浦和での活躍を認められて日本代表にも選出され、2試合に出場、2ゴールを決めた。
身長170センチ、体重68キロ。強さやパワーの面では、Jリーグでも平均以下だろう。武藤の最大の「武器」は、労を惜しむことのない運動量と、何よりも判断の速さだ。
パスを受け、ターンする。顔を上げ、状況を見る。そしてその瞬間には、正確なパスが出ている--。見てからプレーまでが異常に速い。見た情報が「脳経由」ではなく直接足に行くかのように見える。
「体が小さいので、とくにプロになってから速い判断を意識してきた。判断を間違えなければ、ボールを奪われることはない」と武藤は語る。
「判断とは見ること。見なければ判断はできない。ボールがくる前から周りを見て、相手の位置を確認する」
その努力の積み重ねがプレーの速さにつながり、彼をチームにとって不可欠な存在にした。武藤雄樹は、サッカーに取り組んでいる少年少女たちに、スタジアムでぜひとも見てほしい選手のひとりだ。
(2018年10月3日)
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