サッカーの話をしよう
No.1185 死語になった『衣替え』
夜の試合の取材に何を着ていくか、毎回迷ってしまう。10月にはいってから、「11月下旬なみ」の予報が出たかと思うと、別の日には30度を超す「真夏日」となった。
「衣替え」という言葉も、すっかり死語になってしまったようだ。以前は10月1日になると高校生たちがいっせいに「冬服」になり、季節を感じさせたが、最近はコート姿と半そで姿が入り交じって歩いていても違和感がない。
サッカーのユニホームも、同じようなことが言える。
ずいぶん昔の話になるが、1970年の11月にユールゴルデンというスウェーデンのクラブが来日し、日本代表と4試合を戦った。東京・国立競技場での初戦は降りしきる雨の中での一戦。ユールゴルデンが若手主体の日本代表に6−1で圧勝したのだが、何より驚いたのは、凍えるような雨のなか、ユールゴルデンの選手たちが半そで姿でプレーしていたことだった。日本代表は、もちろん、全員が長そでだった。
サッカーのユニホームは、昔は生地も厚手で、私のような「草の根プレーヤー」は半そでのユニホームなどもっておらず、長そで1枚で1年を通した。秋から春まで3シーズン使えるからだ。夏には、そでを折り曲げ、たくし上げてプレーした。
それぞれの選手はシャツ、パンツ、ストッキングとも、色の違う2種類を用意する必要がある。シャツだけと言っても、そのうえにさらに半そでを2枚購入するのは大きな出費だった。もちろん、トップクラスのリーグや日本代表では、半そでも用意されていたが...。
最近は「草の根」でも半そでが基本のようだ。素材も、暑い時期の体温放出機能が重視された薄手のものになっている。寒い時期にはアンダーシャツを着用して対応するスタイルが違和感なく受け入れられるようになったからだ。現在では公式ルールにもアンダーシャツについての規定が盛り込まれ、ユニホームの主たる色と同色でなければならないと定められている。
寒い時期の試合で長そでを着るか、半そでにアンダーシャツのスタイルにするかは、個人の好みのようだ。その結果、冬になると両スタイルが混在することになる。よく見ると少し違うのだが、大きな問題ではない。
プロの試合では、近年、真冬でも半そで姿でプレーする選手を見るのが珍しくなくなった。私の感覚では、長そで(あるいは半そでプラスアンダーシャツ)にしたほうがけがの予防にもなるのではないかと思うのだが、それぞれの考えでプレーしやすい形にした結果なのだろう。サッカーでも、「衣替え」は完全に死語になったようだ。
(2018年10月10日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。