サッカーの話をしよう
No.1186 ABBAかABBAか
10月14日のJリーグ・ルヴァンカップ準決勝第2戦、湘南×柏で、久々に心を揺さぶられるPK戦を見た。
湘南が先制し、柏が追いついて1−1で延長戦に突入。ここでも湘南が先に取ったが113分に柏が同点としてPK戦となる。先攻湘南の3番手梅崎が上に外すと、柏も4番手が失敗。最後は柏の6番手、延長戦で同点ゴールを決めた山崎が外し、湘南が初の決勝戦進出を決めた。
ところでこのPK戦は従来どおりの方法で行われた。コイントスで勝ったチームが先攻か後攻かを決め、1人ずつ交互にけっていく方法だ。実は、ことしのルヴァンカップでは別の方法が使われることになっていた。昨年「試験導入」が認められた「ABBA方式」である。
従来の「先攻--後攻--先攻...」という「ABAB方式」ではなく、「先攻が1人けったら後攻が2人けり、また先攻が2人...」という形が「ABBA方式」だ。
従来の「ABAB」では、先攻が有利とされてきた。心理的なものだろうが、ある調査では先攻チームの勝率は6割を超すという。その不公平感を解消するためにと提唱されたのが「ABBA」方式だった。昨年「試験導入」が認められ、日本も参加したU−20ワールドカップ(韓国)で採用された。ことしのロシア・ワールドカップでも使われると予想されたため、ルヴァンカップとともに天皇杯全日本選手権で「ABBA方式」が採用されることになった。
5月に1回戦が行われ、先月のラウンド16(4回戦)まで80試合が消化された天皇杯では、ほぼ6試合に1試合、計13試合がPK戦となった。結果は「先攻」の9勝4敗。勝率は7割近くになる。ただし「ABBA」の導入可否を論ずるには、この試合数ではまったく足りない。
天皇杯では6月の2回戦で審判団がPK戦の運用を間違え、3週間後にPK戦のみやり直すという大きな不手際があった。不正なキックを「失敗」とすべきところを「やり直し」させてしまったのだが、審判たちは初めて経験する「ABBA方式」に気を取られてしまっていたらしい。
ワールドカップで採用されなかったこともあり、Jリーグはルヴァンカップの準々決勝(9月)から「ABAB方式」に戻すことを決定した。この大会ではそれ以前にはPK戦がなく、10月14日の準決勝、湘南×柏がことしの大会で初のPK戦だった。
湘南の決勝進出が決まった瞬間、PKを失敗した梅崎は安堵のあまりか、ピッチに突っ伏した。選手にとって、PK戦は通常のプレーとは比較にならない重圧だ。キックの順番を変えても、その重圧が軽減されるわけではない。
(2018年10月17日)
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