サッカーの話をしよう
No.1189 イラン 女性にも観戦の権利がある
2−0で先勝し、「アジア王者」に王手をかけた鹿島アントラーズ。11月10日にペルセポリスとのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦を戦う舞台が、イランの首都テヘランの西郊にあるアザディ・スタジアムだ。
現在の収容人員は約8万だが、2005年3月に「ジーコ・ジャパン」がイランと対戦したワールドカップ予選は男性ばかり11万人の観客で埋まり、異様な雰囲気となった。
イラン・サッカーのシンボルとも言うべきこのアザディ・スタジアムで、先月歴史的な「大事件」が起きた。いま「イラン」と言えばアメリカによる経済制裁強化の話題ばかりだが、こんな話もある。10月16日、ボリビアを迎えての親善試合に約百人の女性が招待され、スタンドでカラフルな応援を繰り広げたのだ。
1979年のイラン革命以来、イランでは男性スポーツの女性の観戦が禁止されてきた。法律ではない。「男性的な雰囲気から女性を守る」という宗教的な理由だった。
他国に例を見ないこの制度は、世界中の人権団体から非難されてきたが、撤回の動きはまったくなかった。
空気が変わり始めたのは昨年だった。大統領選挙に立候補したハッサン・ロウハニ師が、「女性締め出し」の解除を公約のひとつとして当選。大きな期待がかかった。だが保守強硬派の反対に合い、なかなか実行に移せなかった。
そんななか、ことし3月には変装して国内試合の観戦を試みた女性35人が逮捕される事件が起きた。4月には、イラン人女性姉妹がボーカルを務めるスウェーデンのバンド「アブジーズ」が、「私にもサッカーを見る権利がある」と歌う『スタジアム』という曲を発表、SNSを通じてたちまち世界に拡散した。
6月、ロシア・ワールドカップの初戦でイランがモロッコに1−0で勝ったことを受け、テヘラン州政府は1次リーグの残り試合のパブリックビューイングをアザディ・スタジアムで実施。女性の入場も自由とする画期的な決定をした。男女入り交じったスタンドで心から楽しそうに応援する女性たちの姿が、10月の「観戦許可」につながった。
ただ、10月のボリビア戦を男性から隔離されたスタンドで観戦することを許された女性は、選手の家族、各種のイラン代表選手、協会の職員などごく限られた人びと。完全解禁にはほど遠く、守旧派はいまも強硬に反対している。
宗教的信条や社会習慣を外からとやかく言うべきではない。ただ、誰でも自由に安心してスタジアムで試合を楽しめるようになることは、世界中のサッカーファンの本意であるに違いない。
ところで10日のACL決勝第2戦、イラン人女性の観戦は許されるのだろうか--。
(2018年11月7日)
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