サッカーの話をしよう

No.1190 増えた『夢の劇場』

 「よくはいっているな」
 終盤を迎えたJリーグの戦いを見ながらそう感じた。得点ではない。観客である。
 2節を残して川崎フロンターレの連覇が決まったJリーグだが、後半戦は多くの試合で観客席がよく埋まっている印象があった。調べると、ワールドカップによる中断明け以後の17節、全153試合のうち、3割強にあたる48試合で「ほぼ満員」と言ってよいキャパシティの8割以上の入場者数を記録していた。
  11月3日(祝)を中心に行われた第31節は、9試合の平均入場者が2万4634人。今季最多だった。そのうち川崎(対柏)、湘南(対清水)、磐田(対広島)、名古屋(対神戸)、鳥栖(対長崎)の5試合が8割超えだった。
 ワールドカップによる約2カ月間の中断があったため、今季のJリーグは過密日程を強いられ、「水曜日開催」が4月から8月にかけて6節もあった。ちなみに昨年は1節だけである。そしてその6節のうちお盆休み期間の第22節を除く5節の平均入場者数は1万1578人。第32節までの全288試合の平均(1万8747人)を大きく下回った。さらに7月、9月と2回にわたってJリーグの試合日が台風の直撃を受け、計5試合が延期を余儀なくされた。
 こうしたネガティブな要素が重なったにもかかわらず、残り2節の時点で昨年の平均(1万8883人)に近い入場者数を記録していることは高く評価されていい。
 理由のひとつに「イニエスタ効果」がある。7月にヴィッセル神戸に加入したスペインのスーパースターは、以後ホーム、アウェーにかかわらず、欠場の試合を含め(!)ほとんどのスタジアムを8割超えの観客で埋めた。今季後半戦の盛り上げのひとつの要因となったのは間違いない。
 だがそれだけではない。今季終盤は「アジア・チャンピオンズリーグ枠争い」や「残留争い」に多くのチームがからみ、サポーターの熱気を高めた。そして何より、1人でも多くのファンにスタジアムにきてもらおうと知恵を絞ってきた各クラブの継続的な努力の結晶でもある。
 「満員のスタジアム」はそれだけで価値がある。観客席がぎっしりと埋まると、まったく別の世界が生まれ、まさに「夢の劇場」となるのだ。
 ところで、今季も入場者数1位は浦和レッズ(3万4798人)だが、これまでのホーム16試合のうち実に15試合で8割超えを記録しているクラブがある。川崎だ。1試合平均2万3237人は、キャパシティ2万6727人の実に86.3%。年間での8割超えはただ1つだ。常に満員、常に「夢の劇場」を実現し続けた川崎は、やはり「チャンピオン」にふさわしい。

(2018年11月14日) 
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