サッカーの話をしよう
No.1193 南米の恥
鹿島アントラーズが出場するクラブ・ワールドカップの開幕(12日)が1週間後に迫ったが、南米代表がまだ決まっていない。
南米王者を決めるリベルタドーレス杯の決勝は11月10日と24日の予定だった。対戦はともにアルゼンチンのブエノスアイレス市をホームタウンとするボカ・ジュニアーズとリバープレートである。
世界には数多くの「ダービー」(地元のライバル同士)関係があるがこの2クラブは特別だ。ブエノスアイレス市だけでなく全国民を二分し、庶民層(ボカ)と富裕層(リバー)を代理するクラブとして不?戴天の関係にあるからだ。そのライバルが、ただの決勝でなく、史上初めて南米王者をかけてぶつかるのだ。
しかし決勝は次々とアクシデントに見舞われた。
初戦はボカのホーム。だが11月10日が大雨だったため、翌11日に順延され、2−2で引き分けた。両チーム合わせて6人にイエローカードが出される乱戦。リバーの同点弾は相手オウンゴールだった。
そして24日の第2戦。この日に「南米王者」が決まるはずだったが、試合はキックオフされなかった。競技場入りしようとしたボカのチームバスを取り囲んだ何十人かのリバー・ファンが石を投げ、窓ガラスが割れて何人ものボカ選手を負傷させたのだ。
南米サッカー連盟は翌日に試合を行うこととしたが、選手の負傷が癒えないことを理由にボカが拒否。暴動再発の抑止策もまとまらないなか、無観客試合も検討されたが、29日になって12月9日開催を発表した。しかし会場はブエノスアイレスから1万キロ離れたスペインのマドリード。レアル・マドリードのスタジアムが指定された。
それぞれのチームには2万5000枚のチケットが割り当てられるが、アルゼンチン国内在住のファンにはそれぞれ5000枚。2万枚は国外在住者に限り、オンラインで販売される。すべての入場者は身分証明書の提示が求められ、厳しいセキュリティー体制が敷かれるという。
「大西洋を隔てたところでブエノスアイレスのクラブ同士の試合が行われるなんて、ファンたちが気の毒でならない。そしてこんなことになった原因は、アルゼンチンの少年少女たちの心を大きく傷つけたに違いない」
そう語るのは、試合が行われるレアル・マドリードの現監督であり、プロデビューをリバープレートで飾ったアルゼンチン人のサンチャゴ・ソラリである。現在フランスでプレーするブラジル代表DFダニ・アウベスは「南米人として恥ずかしい」と話す。
UAEで開催されるクラブ・ワールドカップに南米代表が初登場するのは18日。9日は「待ったなし」だ。
(2018年12月5日)
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