サッカーの話をしよう
No.1196 2つの決断が救った年
日本代表チームはとても良い状態で2018年を終え、新しい年を迎える。
夏にロシアで行われたワールドカップでは8年ぶりにグループリーグを突破し、決勝トーナメント1回戦では、過去2回このラウンドに進出したときと比較して格段に良い内容の試合を披露した。そして大会後に西野朗監督から引き継いだ森保一監督は、思い切った若手起用により短時間で新世代の期待あふれるチームを魔法のようにつくった。
しかしひとつ間違っていれば、真逆の結果もあった。ワールドカップで惨敗を喫し、希望のない状態で年末を迎える可能性のほうが高かったかもしれない。それを逆転させたのは、2つの、「ギャンブル」にも似た決断だった。
ひとつはワールドカップ開幕をわずか2カ月後に控えた4月上旬、ハリルホジッチ監督の解任だ。すでに「最終強化試合」を終え、残すは大会直前の3つの調整試合だけ。この状況で、日本サッカー協会の田嶋幸三会長は監督交代を決断、それまで技術委員長だった西野朗氏にワールドカップでの指揮を託した。
「1%でも2%でもワールドカップで勝つ可能性を高めるための決断」(田嶋会長)は、H組を突破し、強豪ベルギーを追い詰めた決勝トーナメント1回戦で報われた。
そして第2は、グループリーグ最後のポーランド戦、突破を決めた西野監督の「0−1の負けのままでいい」という、これこそ「ギャンブル」そのものの決断だ。
後半35分を回ったときセネガルもコロンビアに0−1だった。もしもこのままなら、首位はコロンビア、2位を日本とセネガルで争う。この2チームは勝ち点、得失点差、総得点、直接対決の結果も同じ。通算警告数の少ないほうが上という順位決定方法が大会史上初めて使われる。日本は4回、セネガルは6回。西野監督はセネガルがコロンビアに追いつけないことに賭けた。そしてボールを保持しても攻めないことを決断した。
最後の交代としてFW武藤に替えてボランチの長谷部を投入。長谷部が監督の指示を徹底し、日本が前に出さずにDFラインでパスを回し始めると、やがてポーランドも呼応、以後はともに攻撃的なプレーはなく、試合を終えた。
この行為に対する批判はあって当然だ。しかしセネガルが同点に追いついたら何もかも失うという巨大な恐怖を乗り越えての西野監督の決断を安易にアンフェアと非難することは、私にはできない。
2つの決断があったからこそ、日本のサッカー史に残るベルギー戦があり、秋以降の「森保ジャパン」の成長がある。2018年の日本サッカーを振り返るとき、白刃を踏むような2つの決断を忘れることはできない。
(2018年12月26日)
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