サッカーの話をしよう
No.1198 ベルギーとの差は対応力だった
昨年のワールドカップ、ベルギー戦の後半追加タイムでの失点を深く掘り下げたNHKのドキュメントが、年末に話題を呼んだ。
しかし日本の敗因がカウンターアタックの「14秒間」だけにあったわけではなかったことが、VTRで紹介されたベルギー代表ロベルト・マルティネス監督の話で明らかになった。12日から14日まで高知市で行われた日本サッカー協会の「フットボールカンファレンス」でのことだ。
後半7分までに0−2とリードされたベルギー。しかしその13分後、マルティネス監督は冷静に手を打った。2人の長身MF、フェライニとシャドリの投入である。
「60分間最高のプレーをしていた日本をひっくり返すには、変化が必要だった。5バックぎみになっていたDFラインを4バックにし、ボールをサイドに出してからシンプルに両センターバックの背後をつくことにした」と、マルティネス監督は説明する。
驚くべきは、後半の途中、「タイムアウト」を取って指示したわけでもないのに、ベルギーの攻撃が魔法のようにスムーズに変化したことだ。それまで快調にパスを回して攻勢をとっていた日本が防戦一方となり、またたく間にヘディング2本で同点とされてしまったのだ。
「我々のベンチには、いろいろな特徴をもった選手がいた。2人の投入でチーム全体が私の意図を理解し、素早くプレーを変化させてくれた」
対する日本代表の西野朗監督も、リードした場合には相手がこうくるはずと予想していただろう。しかし西野監督の手元には、相手の狙いを無力化できる手駒はなかった。
ただし手駒の質や量が敗因というわけではない。状況の変化への「対応力」で、日本とベルギーの間に大きな差があった。2点先行した後の相手の変化に対し何をしなければならないか、日本選手たちが察知し、実行に移せていれば、リードしたままで試合を終わらせることができただろう。そしてその対応力こそ、4年後のワールドカップに向けて日本代表に突きつけられた最大の課題と言える。
ベルギー選手の対応力がどこからくるのか--。マルティネス監督はこう話す。
「教育だと思う。ベルギーの選手たちは例外なく3カ国語を話し、いろいろな国で、いろいろな監督の下でプレーしている。だから柔軟性と対応力が身についている」
日本のサッカー選手には数多くの長所がある。しかし同時に、足りない部分もたくさんある。最大の欠点は、指示を待たずに自分自身で判断し実行する力ではないか。テレビ的な「14秒のドラマ」よりも、後半20分からの劇的な試合の変化の背景にしっかりと目を向けなければならない。
(2019年1月16日)
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