「これはね、ここから中には相手を入れてはいけないというラインなんだ」
1987年から日産(現在の横浜FM)で活躍し、後に監督も務めたオスカーは、日産の若いDFたちにこう説明した。彼が指し示したのは、ゴールから16.5メートル、ペナルティーエリアのラインだった。
「この中からシュートを打たれたら失点の可能性が高くなる。だから絶対にこの手前で止めなければならない」
26シーズン目のJリーグが開幕した。第1節の9試合で生まれた得点は19。1試合平均2.11ゴールは、昨年の全306試合での793得点、1試合平均2.59ゴールと比較すると少し寂しかった。
Jリーグでは試合前にピッチ上で20~30分間のウォームアップが行われる。やり方は千差万別だが、どのチームもその締めくくりは1人何本かずつのシュート練習ということになる。だがこれがなかなかはいらない。10本のうちGKを破ってゴールにはいるのは1本程度。半数の5本以上がゴールの枠を外れ、枠内に飛んでも5本中4本はGKに止められる。
失礼ながら、「シュートを外す練習をしているのか...」と、見るたびに思う。
相手の妨害がある「試合」ではなく、妨害のない練習なのになぜはいらないのか。どのチームもほぼ例外なくペナルティーエリアの外からばかりシュートしているからだ。
日本サッカー協会が2014年のワールドカップ後に発表した『テクニカルレポート』に、2002年から4大会分の「得点となったシュートが打たれた位置」に関するデータがある。4大会全624ゴールのうちゴールエリア内が23.7%、ペナルティーエリア内が53.4%。派手なスーパーゴールが多いという印象があるワールドカップでさえ、ペナルティーエリア外からのシュートで得点になったのは15.4%に過ぎない(7.5%はPKによる得点)。ちなみに今季のJリーグ第1節の得点は、それぞれ15.8%、68.4%、10.5%、5.3%。やはりペナルティーエリア内からのものが圧倒的に多い。
ならば、シュート練習はペナルティーエリア内からいかに決めるかに重点を置くべきだ。ロングシュートが必要な場面もあるが、エリア外から力いっぱいける練習ばかりでは得点力は上がらない。
オスカーが話したように、得点することとは、ペナルティーエリアにはいってシュートを打つことだ。いかにエリア内でのシュートの状況をつくるかはチームの攻撃の最重要課題であり、そのシュートを得点に結び付けるのは個々の選手に課せられたテーマと言える。そこに、適切なシュート練習の必要性がある。
(2018年2月28日)
「春は名のみの...」を地で行くような寒さだ。
記録的な寒波だという。日本海側や東北地方、そして北海道は厚い雪に覆われ、太平洋岸でも連日氷点下に近い冷え込みが続いている。
そうしたなか、Jリーグの開幕が近づいている。今週土曜日にはシーズンの開幕を告げる「スーパーカップ」(川崎×C大阪)が埼玉スタジアムで行われ、23日(金)から25日にかけてJ1とJ2がいっせいに開幕する。J3の開幕は3月9、10の両日だ。
1月30日には柏でアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のプレーオフがあった。火曜日だからキックオフは午後7時。トレーニング開始から3週間たらずで試合に臨んだチームも大変だったが、1月のナイター観戦は、観客にとってもあまり歓迎したくないことだったに違いない。
昨年、Jリーグは従来のシーズン制を継続することを決めた。8月開幕、翌年5月閉幕という「秋春制」に変更するか長年検討してきたが、変更によるたくさんのメリットを理解しつつも、冬の公式戦が増えることに対する恐れを拭い切れなかったのだ。積雪による試合中止のリスクもある。何よりも、寒いなかではファンに来てもらえないという思いがある。
だがシーズン制が現在のままでも、寒さに凍えながらの観戦になる時期は短くない。2月、3月、11月、12月はもちろん、ナイターなら4月でも相当冷え込む。友人に笑われながらも、私は4月までは取材バッグのなかにダウンのインナーと手袋を入れておくのだが、かなりの頻度で出番が訪れる。
仕事なら寒さも我慢しなければならない。だが安くない入場料を払うファンに我慢させていていいのか。ファンが来なければプロスポーツは成り立たない。現在のままのシーズン制でも寒さに凍えているファンがいるなら、リーグやクラブは、「寒くないスタジアム」の実現に向け動き始めなければならない。
どんな天候でも快適に観戦できるのは、「ドーム型スタジアムに冷暖房」だろう。だが短期間での実現は難しい。まずは全観客席に屋根をかけること、風が吹き抜けないように観客席の背後をふさぐこと。そしてそのうえに、地域の気候やスタジアムに合わせた効果的な暖房システムを構築する。風力をはじめとした再生可能エネルギーだけでなく、近隣工場の排熱利用など工夫の可能性は無限にある。
今週冬期五輪が開幕する韓国の平昌(ピョンチャン)はマイナス20度にもなると言う。それほどでなくても、2月、3月の日本のサッカースタジアムで2時間じっと座っているのは十分つらい。この問題を放っておくことは許されない。
(2018年2月7日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。