サッカーの話をしよう

No8 観戦の基礎知識 オフサイド

 互いのゴールを攻め、守るという単純明快なスポーツ、サッカー。そのなかで唯一わかりにくいのがオフサイドルールだ。
 パスが2本、3本とつながり、最前線のFWにボールが出る。「シュート!」と身を乗り出すと無粋なホイッスル。オフサイドがわかれば、観戦ももう少し面白いのに、と思う人も多いのではないだろうか。

 オフサイドは、ルールが統一される前、英国の私立高校でそれぞれのルールの下で行われていた時代に誕生した。敵ゴール前にこっそりといて得点する卑劣な方法を禁止したものだ。現在のルールは以下のように整理するとわかりやすい。
 最初に「オフサイドポジション」を想定する。
 ①相手陣にいる。
 ②ボールより前にいる。
 ③相手の後ろから2番目の選手より前に出ている。
 3つの条件を全部満たすと、その選手は「オフサイドポジションにいる」ことになる。「前」というのは「相手側ゴールラインにより近い位置」という意味。たいていの場合はGKがゴールについているから、いちばん後ろのDFより前に出ているとオフサイドポジションとなる。
 だがこのポジションにいるだけでは反則ではない。その選手に向かってパスが出されたときに初めてオフサイドの反則になるのだ。

 整理してみると意外に簡単なルール。わかりにくいのは、反則かどうかの判断をするタイミングが、パスがFWに渡ったときではなく、後ろの選手がパスを出した瞬間だという点だ。パスが飛んでいる間にFWが前に出た場合にはオフサイドではないし、逆にパスが出てからDFが戻ったときにはオフサイドだ。
 ここで問題なのは「オフサイドトラップ」。相手がパスをする直前にDFが前に出て、FWをオフサイドにしてしまうという守備戦術だ。ルールができたときの精神からすると、このFWは卑劣な方法をとったわけではないが、今日の解釈ではこれもオフサイドの反則となってしまう。
 大変なのはラインズマンだ。真横から見ていると、DFとFWが出たりはいったりする。パスが出た瞬間にどちらが前にいたか、正確に見るのは至難の業なのだ。その結果、ワールドカップのような世界の一流の審判が集まる大会でも誤審が起こる。オフサイドの判定は直接得点チャンスにつながる。だから大きな議論となることが多い。

 先日のヴェルディ対ガンバ戦のカズの決勝ゴールもその例だった。百人が百人オフサイドという印象をもつ場面だったので、なおさらだった。しかしVTRを詳細に見ると、判定は正しかったようだ。
 笛が吹かれる前に「オフサイド!」と言って周囲の尊敬をかちとる秘密の方法がある。ラインズマンを見ることだ。オフサイドの反則があったとき、ラインズマンはその場に止まって旗を真上にあげる。「これは?」と思ったときにすばやくラインズマンを見れば、いち早くオフサイドを知ることができるのだ。

(1993年6月22日=火)
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