サッカーの話をしよう

No32 クラブとホームタウンは恋愛関係

 サッカークラブとそのホームタウンは「ラブアフェアー」(恋愛関係)だ。
 互いに求め合い、互いに与え合うなかで、新しい価値を築いていく。そのベースは相互の信頼。互いに欠点があっても、それを改める姿勢があればうまくやっていくことができる。

 五月にJリーグが始まった時点では、リーグの理念の理解はそれほど広まってはいなかった。
 しかし第一ステージで鹿島アントラーズが快進撃を見せて地元が大きくクローズアップされたとき、ファンばかりでなく、他のホームタウンやクラブも、Jリーグの理念を具体的な例として見ることができた。
 スポーツはスポーツであり、それを何かのためにと位置づけることは本意ではない。しかし最高の「恋愛関係」がホームタウンやプロのチームの双方をいかに幸せにしてくれるか、鹿島の例によって、だれもが理解したはずだ。
 だからこそ、日本の各地に「自分の町にもJリーグのチームがほしい」という動きが出てきたのだ。
 その点で、今回のヴェルディの「調布移転」騒ぎは非常に残念といわざるをえない。片方が一方的に、他の相手に乗り換えようとしているのだから。

 スタジアムの整備という点でホームタウン側の努力がこれまで不足していたとしても、別の人と新しく婚約しながらそれまでの恋愛関係を続けることはできない。そんな簡単なことの理解がヴェルディにも新しく「婚約者」になろうとしている調布市にもなかったことは信じがたいことだ。
 横浜と九州の三都市をホームタウンとする横浜フリューゲルス、スタジアムのある吹田市をホームタウンとしながら「大阪」を名乗るガンバ大阪、あるいはスタジアム収容人員の不足など、Jリーグには規約の逸脱が放置されている例がある。しかし新しく加入するクラブには、「湘南ベルマーレ」を「ベルマーレ平塚」に改めさせるなど厳格な態度がとられている。現在逸脱しているクラブも、近いうちに改善が要求されることになるだろう。
 「企業名をはずす」という原則も、現在は猶予期間ということになっている。九五年には正式なクラブ名から企業名をはずすよう要請が出されるはずだ。
 「正常な恋愛関係」のクラブとホームタウンで運営していくことが、Jリーグにとっての「生命線」であるからだ。
 こうしたクラブとホームタウンの「恋愛関係」が理解できていれば、ヴェルディの「移転騒ぎ」など起こるはずはなかった。

 クラブ側が恋愛関係を壊すなら、ホームタウン側は期限つきでなく即座の関係解消を迫るはずだ。川崎市には、東芝、富士通、NKKというチームがある。いずれも企業のチームだが、すぐ下のJFL所属の強豪で、等々力競技場を使いたいと願っているはずだ。ヴェルディを失っても、川崎市はトップクラスのサッカーを失うことはない。
 そうなったら、ヴェルディはどこに行くのか。「ヴェルディ調布」が実現する数年後までどうするのか。
 こんな状況が日本のサッカーやファンにとってハッピーなはずはない。
 ホームタウンとクラブが恋愛関係なら、ホームタウン側がクラブを見限ることもある。努力の不足と強化体制の遅れによって弱体化の一歩を歩むクラブは、ホームタウンから「これでは市民が幸せになれないから出ていってくれ」と言われることは十分ありうる。
 双方の努力なくして「恋愛関係」を幸せに継続することはできない。

(1993年12月14日=火)
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