サッカーの話をしよう

No41 強くなるために天然芝

 先週東京ドームでふたつのサッカーの試合が行われた。ドームといえば人工芝だが、シートを敷き、その上に天然芝を敷きつめた即席のフィールドだ。
 昨年夏にも同様のテストが行われたが、そのときには軟らかすぎ、そのうえ、育成地から搬送する間に少し腐ってしまい、異様なにおいもした。だが二回目のテストとなった今回は、前回の反省を生かし格段に優れたものができたようだ。

 現在、日本サッカー協会やJリーグでは人工芝では公式戦は行わない方針をとっている。東京ドームはこの「即席天然芝」で公式戦を開催したいという希望をもっているが、それは予想外に早く実現しそうだ。
 イングランドで生まれたサッカーは、芝の上でやるのが当然となっている。見た目に美しく、ケガが少ないなどの利点もあるが、何よりもプレーの質に影響を与えるからだ。

 1965年に日本サッカーリーグが始まった当時は立派な芝生のグラウンドは数えるほどしかなかった。リーグでは入場料の一部を「グラウンド建設基金」としてプールし、自ら芝生のグラウンドをつくろうとしたほどだった。
 そのころに比べれば競技場の芝生はよくなったが、学校や企業の練習グラウンド、あるいは一般貸し出しをするグラウンドは、まだ大半が土のままだ。

 やってみればわかることだが、土のグラウンドではボールコントロールが非常に難しい。芝に比べて硬いからバウンドが大きいし、少しさわると簡単にころがっていってしまうから、ドリブルもにくい。
 だが、残念なことに、土のグラウンドで練習していれば普段から芝生でやっている選手よりうまくなれるということはできない。土のグラウンドでは、戦術能力が育ちにくいからだ。
 「戦術能力」とは、簡単にいえば、いつ、何をするかという判断力のこと。子供のころから芝のグラウンドで練習、試合をしていれば、あまりボールコントロールに気をとられずにプレーできるから、周囲を見て判断する余裕ができる。その積み重ねが戦術的能力を向上させる。

 日本では、グラウンド自体も足りないが、芝生のグラウンドは本当に少ない。少年が芝生の上でプレーするチャンスは、1年にいちどあるかないかだろう。
 練習グラウンドを人工芝にするところも少なくない。雨が降ってもすぐ使えること、管理に人手や費用がかからないことなど、人工芝の利点は多い。サッカースクールなど、たくさんの選手やチームが使うグラウンドには最適かもしれない。
 しかし人口芝は、平らということだけで、デメリットは土のグラウンドに負けないほど多い。ボールコントロールはさらに難しく、足首やヒザ、腰などにかかる負担が大きい。そのうえ転倒したときにヒザなどをひどく擦りむいてしまう。公式試合で人工芝が認められていないのは、これが大きな理由になっている。
 寒冷地や乾燥地では、次善の策として人工芝も仕方がない。実際、ワールドカップ予選が人工芝で行われた例もある。

 イングランドのように全土が芝で覆われているような国と違い、日本では、芝を育て、保つのは並大抵のことではない。だが、土や人工芝のグラウンドだけでは、日本サッカーは強くなることはできない。
 「即席の天然芝」など、見せるための施設での技術革新は大いに歓迎されることだ。だが同時に、少年たちが練習や試合をするためのグラウンドにも天然の芝生が必要であることを忘れてはならない。そのための努力を怠ってはけない。

(1994年2月15日=火)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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