サッカーの話をしよう
No66 カギを握る左利きの選手
Jリーグの第2ステージが始まって、大きく伸びたチーム、足踏み状態のチーム、逆に第1ステージより戦力が落ちたのではないかと見えるチームなど、いろいろあって興味深い。そのなかで、2シーズン連続優勝を狙うヴェルディの「補強」が気になった。
カズ(三浦知良)がイタリアに移籍したことで、ストライカーをどうするかが大きなテーマだったヴェルディ。新しくヘッドコーチに就任したネルシーニョが連れてきたのは、ベンチーニョという選手だった。
MFとFWの両方をこなすので、これまでMFだったビスマルクと交互に前線に上げて武田とコンビを組ませようというプラン。ヘディングの強さを生かしてこれまでのヴェルディにはなかった攻撃パターンも使えることになる。
「気になる」と書いたのは、ベンチーニョが右利きということだ。カズも本来は右利きだったが、天性の器用さで状況に応じて左利きのようにプレーできた。ヴェルディのレギュラークラスには左利きは戸倉(左サイドバック)しかいないので、カズが抜け、ベンチーニョがはいったことで、極端な右利きのチームになってしまった。
サッカー選手は、逆足できちんとけることができても、試合になると八割から九割のボールを利き足で扱い、ける。右足と左足ではボールの軌跡やキックのタイミングが違う。
たとえば、左サイドから攻める選手が右利きだと、縦に抜け出てもどうしてもセンタリングは右足でしようとして、右へ切り返してからのキックが多くなる。これによって最良のタイミングを逸してしまう。チームには右利きと左利きの選手が5人ずついるのが理想。少なくとも2人の左利きが必要だ。
ヴェルディの今回の補強は、そうしたチームづくりのセオリーを無視したものだ。その結果、攻めの8割以上が右サイドからのものになってしまった。このままでは、第2ステージも苦戦は免れないはずだ。
他のチームを見ると、アントラーズのレオナルド、ジェフのマスロバル、レッズのバインと、第2ステージを前にしていずれも左利きのMFを補強したのが目につく。とくにジェフは、左利きのMFということを強く意識してマスロバルを補強したように見える。
もともと日本人には左利きが少ないうえに、コーチたちがその戦術的価値を認識していない場合が多い。その結果、Jリーグレベルでも左利きの選手が決定的に不足している。
Jリーグだけではない。代表チームも左利きの選手の不足に泣かされている。昨年のワールドカップ最終予選で、左サイドバックの都並が負傷で使えないとわかったときの混乱ぶりを思い出す人も多いだろう。
本来は右利きだった都並だが、若いころ所属の読売クラブの右サイドバックには松木(現監督)という名手がいたため、試合に出るために左足のキックを徹底して練習して左サイドバックのポジションを得た。彼は、左前に出て左足でセンタリングを出すことができる選手として、オフト構想の重要な選手となった。
現在の日本サッカーには多くの課題があるが、無視できないのは、左利き、あるいは左足を右足と変わらないように使えるカズや都並のような選手の養成だ。
グランパスのFW小倉、平野、ベルマーレのMFあるいはDFの岩本、ジュビロのDF遠藤といった左利きの素材をそれぞれのポジションでどう伸ばし、チームのなかでどう生かしていくか。日本代表チームの強化にも、左利きの選手たちは重要なポイントだ。
(1994年8月16日=火)
カズ(三浦知良)がイタリアに移籍したことで、ストライカーをどうするかが大きなテーマだったヴェルディ。新しくヘッドコーチに就任したネルシーニョが連れてきたのは、ベンチーニョという選手だった。
MFとFWの両方をこなすので、これまでMFだったビスマルクと交互に前線に上げて武田とコンビを組ませようというプラン。ヘディングの強さを生かしてこれまでのヴェルディにはなかった攻撃パターンも使えることになる。
「気になる」と書いたのは、ベンチーニョが右利きということだ。カズも本来は右利きだったが、天性の器用さで状況に応じて左利きのようにプレーできた。ヴェルディのレギュラークラスには左利きは戸倉(左サイドバック)しかいないので、カズが抜け、ベンチーニョがはいったことで、極端な右利きのチームになってしまった。
サッカー選手は、逆足できちんとけることができても、試合になると八割から九割のボールを利き足で扱い、ける。右足と左足ではボールの軌跡やキックのタイミングが違う。
たとえば、左サイドから攻める選手が右利きだと、縦に抜け出てもどうしてもセンタリングは右足でしようとして、右へ切り返してからのキックが多くなる。これによって最良のタイミングを逸してしまう。チームには右利きと左利きの選手が5人ずついるのが理想。少なくとも2人の左利きが必要だ。
ヴェルディの今回の補強は、そうしたチームづくりのセオリーを無視したものだ。その結果、攻めの8割以上が右サイドからのものになってしまった。このままでは、第2ステージも苦戦は免れないはずだ。
他のチームを見ると、アントラーズのレオナルド、ジェフのマスロバル、レッズのバインと、第2ステージを前にしていずれも左利きのMFを補強したのが目につく。とくにジェフは、左利きのMFということを強く意識してマスロバルを補強したように見える。
もともと日本人には左利きが少ないうえに、コーチたちがその戦術的価値を認識していない場合が多い。その結果、Jリーグレベルでも左利きの選手が決定的に不足している。
Jリーグだけではない。代表チームも左利きの選手の不足に泣かされている。昨年のワールドカップ最終予選で、左サイドバックの都並が負傷で使えないとわかったときの混乱ぶりを思い出す人も多いだろう。
本来は右利きだった都並だが、若いころ所属の読売クラブの右サイドバックには松木(現監督)という名手がいたため、試合に出るために左足のキックを徹底して練習して左サイドバックのポジションを得た。彼は、左前に出て左足でセンタリングを出すことができる選手として、オフト構想の重要な選手となった。
現在の日本サッカーには多くの課題があるが、無視できないのは、左利き、あるいは左足を右足と変わらないように使えるカズや都並のような選手の養成だ。
グランパスのFW小倉、平野、ベルマーレのMFあるいはDFの岩本、ジュビロのDF遠藤といった左利きの素材をそれぞれのポジションでどう伸ばし、チームのなかでどう生かしていくか。日本代表チームの強化にも、左利きの選手たちは重要なポイントだ。
(1994年8月16日=火)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。