サッカーの話をしよう

No117 ジョルジーニョのプロ魂

 今季のJリーグは、世界的な名手がフルパワーのプレーを見せ、なかなか楽しい。なかでも「すごい」と思わせるのが名古屋グランパスのストイコビッチ(ユーゴスラビア)だ。

 ヨーロッパで屈指の才能といわれ、国際的な競争の末ユーゴのレッドスターからフランスのマルセイユに移籍したが、なかなかフルに活躍できず、昨年夏にグランパスに移籍したときには、「どこか隠れたケガがあるのでは」と疑問視する人も多かった。
 昨年は自分をコントロールできずに警告、退場を繰り返し、グランパスの「浮上」を実現することはできなかった。
 しかしことしはベンゲルという名将を得てチームが大きくレベルアップしたこともあり、実に生き生きとプレーしている。得意のトリッキーなプレーも随所に発揮され、見ていて本当に楽しい選手となった。
 彼自身、これほどサッカーを楽しんでいるのは、九〇年のイタリア・ワールドカップ後に故郷を離れて以来初めてのことではないだろうか。

 ストイコビッチだけではない。浦和レッズのDFブッフバルト(ドイツ)は、リーチを読みとリーチの長さを生かした守備でレッズ躍進の立役者となった。スタートはあまりよくなかったが、第2ステージからジュビロ磐田でプレーするドゥンガは、現在の世界でも屈指のMF。なじめば、ブラジル代表で見せる力強いプレーでチームを引っ張っていくことだろう。
 そしてこの夏、見るたびに感心させられたのが、鹿島アントラーズのジョルジーニョだ。

 ブラジル代表では右のサイドバック。アントラーズではMF。判断の速さ、スピード、テクニック、パスの正確さは、「世界ナンバーワンの右サイドバック」であることを納得させる。
 しかし感心させるのはそうしたサッカーの「能力」ではない。どんな試合でも常に百パーセントの力を発揮する「プロ魂」だ。

 Jリーグのオールスターでは「ヴェガ」のストッパーを務め、「アルタイル」の中山(ジュビロ)をハードマーク。他の選手たちがいつもと違ってリラックスしたプレーを見せるなか、ジョルジーニョのプレーは真剣そのもの。中山へのパスをインターセプトする瞬間には、「殺気」さえ感じられた。
 ブラジル代表と日本代表の試合では、すでに4−1と大量リードを奪った後半40分に北沢からカズへのスルーパスをカットしようと体を張ったプレーを見せ、その結果足を痛めた。
 そして先週行われたFIFAチャリティーマッチでは、前半38分にバルデラマのパスを受けて右サイドを突破し、鋭いセンタリングを送って3点目にアシスト。ボールを前に突き出し、ジャンプながらタックルをかわしたプレーは、この試合のハイライトのひとつだった。

 この試合で彼はふたたび右足を痛めた。残念なことだったが、同時に彼が百パーセントのプレーをしたことの証明でもあった。
 ジョルジーニョのようなテクニックやスピードをもつことは、なかなかできない。しかし、彼のように出場した全試合で全力を尽くすことは、誰にもできそうで、実は、誰にもできない「偉大な能力」なのだ。
 どんな試合でも、生真面目な表情ひとつ変えずに同じレベルのプレーを見せるジョルジーニョ。
 ストイコビッチのプレーはその「才能」に歓声が上がる。しかしジョルジーニョは、常に自己をパーフェクトにコントロールするその精神力に、感嘆の声を上げずにいられない。

(1995年9月5日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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