サッカーの話をしよう
No136 クラブ運営のための研修を
「ドイツではね、スポーツシューレでクラブ関係者のための運営の講座があるんですよ」
こんな話を小川武郎さんから聞いたのは、昨年夏のことだった。
都内で建設コンサルト会社を営む小川さんは、千葉県内で少年サッカーチームのめんどうを見ながら自らもボールをける「草サッカーマン」。よく行くドイツのスポーツシューレ(スポーツ学校)には、以前から強い関心をもっていた。
昨年3月、出張中にドイツで心筋梗塞を起こし、入院、手術のために3カ月間も滞在しなくてはならなくなった。そのときたまたまお世話になったのが、ビュッテンブルク州サッカー協会の役員のお宅。小川さんは「これ幸い」と、しっかり「スポーツシューレ」の研究をしてきたという。
Jリーグの川淵三郎チェアマンが30数年前に見て感激し、日本にプロリーグをつくるときの理想形となったことで知られる「スポーツシューレ」。ドイツでは各州のサッカー協会が運営している。
「スポーツシューレ」はプロから少年までいろいろなスポーツチームの合宿の舞台となるだけではない。サッカーのB級コーチ資格取得コースや審判の養成コースなどの講座を年間通じて開講している。そしてとくに小川さんの興味を引いたのが、州内4400もの「中小スポーツクラブ」関係者を対象としたクラブの運営方法とマーケティングの講座だったという。
ドイツの町には、人口がわずか500人でもかならず存在するスポーツクラブ。町が土地を提供し、クラブ会員の会費で運営されている。「スポーツシューレ」がそのためのコーチ育成機関になっていることは知られている。だが「クラブ運営」のコースがあるとは、まさに晴天の霹靂(へきれき)だった。
それぞれのスポーツクラブが地域の人びとの生活を豊かにする役に立つためには、しっかりと運営され、活動を充実させなければならない。だからそれにたずさわる人びとに適切な「指導」を行う−−。ごく論理的なことだが、日本にはこうした発想はこれまでまったくなかった。
豊かな自然に囲まれたスポーツシューレにたたずんで、小川さんは日本とJリーグのことを考えた。
「Jリーグの理念とは、地域のスポーツのリーダーとして、スポーツシューレの役割を果たすことではなかったか。ところがいまのJリーグのクラブは、自分のことで精一杯だ」
「地域に豊かなスポーツの文化を築きたい」というJリーグの「理念」に動かされ、全国でJリーグをめざす動きが出ている。なかには大金を投じてJリーグにはいることだけを目指す例もあるが、「地域に根ざすスポーツクラブ」という理念の「本質」を見抜き、それに賛同して動きはじめている地域も少なくない。
Jリーグは、そしてそのクラブは、こうした動きにこれからどう対応していくのか。「クラブづくりをするのなら、私たちがノウハウをもっていますから、どうぞ使ってください」と胸を張って言えるものは、残念なことに現在のJリーグにはない。
先週、小川さんはJリーグにひとつの提案をした。Jリーグとクラブが地域のスポーツクラブを対象にこうした研修プログラムを実施するためのプランだ。
一方Jリーグは、4年目の開幕を前に「理念」を再度告知し、地域スポーツのリーダーの役割を明確にしていく方向だという。小川さんの提案は、この方向性を具現化するものにほかならない。今後のJリーグの動きに注目したい。
(1996年2月6日)
こんな話を小川武郎さんから聞いたのは、昨年夏のことだった。
都内で建設コンサルト会社を営む小川さんは、千葉県内で少年サッカーチームのめんどうを見ながら自らもボールをける「草サッカーマン」。よく行くドイツのスポーツシューレ(スポーツ学校)には、以前から強い関心をもっていた。
昨年3月、出張中にドイツで心筋梗塞を起こし、入院、手術のために3カ月間も滞在しなくてはならなくなった。そのときたまたまお世話になったのが、ビュッテンブルク州サッカー協会の役員のお宅。小川さんは「これ幸い」と、しっかり「スポーツシューレ」の研究をしてきたという。
Jリーグの川淵三郎チェアマンが30数年前に見て感激し、日本にプロリーグをつくるときの理想形となったことで知られる「スポーツシューレ」。ドイツでは各州のサッカー協会が運営している。
「スポーツシューレ」はプロから少年までいろいろなスポーツチームの合宿の舞台となるだけではない。サッカーのB級コーチ資格取得コースや審判の養成コースなどの講座を年間通じて開講している。そしてとくに小川さんの興味を引いたのが、州内4400もの「中小スポーツクラブ」関係者を対象としたクラブの運営方法とマーケティングの講座だったという。
ドイツの町には、人口がわずか500人でもかならず存在するスポーツクラブ。町が土地を提供し、クラブ会員の会費で運営されている。「スポーツシューレ」がそのためのコーチ育成機関になっていることは知られている。だが「クラブ運営」のコースがあるとは、まさに晴天の霹靂(へきれき)だった。
それぞれのスポーツクラブが地域の人びとの生活を豊かにする役に立つためには、しっかりと運営され、活動を充実させなければならない。だからそれにたずさわる人びとに適切な「指導」を行う−−。ごく論理的なことだが、日本にはこうした発想はこれまでまったくなかった。
豊かな自然に囲まれたスポーツシューレにたたずんで、小川さんは日本とJリーグのことを考えた。
「Jリーグの理念とは、地域のスポーツのリーダーとして、スポーツシューレの役割を果たすことではなかったか。ところがいまのJリーグのクラブは、自分のことで精一杯だ」
「地域に豊かなスポーツの文化を築きたい」というJリーグの「理念」に動かされ、全国でJリーグをめざす動きが出ている。なかには大金を投じてJリーグにはいることだけを目指す例もあるが、「地域に根ざすスポーツクラブ」という理念の「本質」を見抜き、それに賛同して動きはじめている地域も少なくない。
Jリーグは、そしてそのクラブは、こうした動きにこれからどう対応していくのか。「クラブづくりをするのなら、私たちがノウハウをもっていますから、どうぞ使ってください」と胸を張って言えるものは、残念なことに現在のJリーグにはない。
先週、小川さんはJリーグにひとつの提案をした。Jリーグとクラブが地域のスポーツクラブを対象にこうした研修プログラムを実施するためのプランだ。
一方Jリーグは、4年目の開幕を前に「理念」を再度告知し、地域スポーツのリーダーの役割を明確にしていく方向だという。小川さんの提案は、この方向性を具現化するものにほかならない。今後のJリーグの動きに注目したい。
(1996年2月6日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。