サッカーの話をしよう
No142 Jリーグチャンピオンズファイナルの愚
先週Jリーグから発表された「サントリーカップ・Jリーグチャンピオンファイナル」ほど、わけのわからない大会はない。
「開催概要」によると、11月9日土曜日に閉幕する今季のリーグ戦に引き続いて、翌週の水曜日、13日と、1週間後、20日に大会を開催する。リーグの上位2チームと、夏に開催される「Jリーグヤマザキナビスコカップ」の優勝・準優勝の2チーム、計4チームが出場し、この両日に「準決勝」と「決勝」を戦う(会場未定)とある。
問題点は2つある。第一にこの大会の開催が「リーグ戦」の価値を落とす危険性。そして第二に、天皇杯との関係だ。
Jリーグは今季「1ステージ制」をとる。2ステージの優勝チームが「チャンピオンシップ」を戦うという過去3年間のシステムを捨て、リーグ戦の成績だけで優勝を決める。年間を通じて最高の成績を残したチームが、そのまま「チャンピオン」になるのだ。
特別のことではない。これが「リーグシステム」の常識なのだ。優勝を勝ち取るためには、長期間コンディションを保つ努力と、目の前の1試合1試合をそれぞれ百パーセントの力で戦い抜く粘り強さが必要だ。それは短期間に波に乗って勝ち取る形式の大会より数倍の努力を要する。それゆえに、どの国でもリーグ優勝チームがその年の「チャンピオン」として最高の敬意を払われるのだ。
そうした思いで勝ち取った「チャンピオン」の重みが、今回発表された「新大会」によって消されてしまうのではないか。一発勝負でこの大会を制するチームがまるで「真のチャンピオン」のように見られ、本当の「Jリーグチャンピオン=日本チャンピオン」がかすんでしまう。
それは当然、マスメディアの責任でもある。「統一チャンピオン」のような表現を使って大げさに盛り上げるのが、メディアの常道であるからだ。しかし今回のは、意識的にそうした方向にメディアをミスリードしようとしているようにさえ思える。ニュースリリースには「1996Jリーグを締めくくる最後の決戦」とうたわれているのだ。
ことし天皇杯は大改革され、80チームが参加する。Jリーグを除く64チームで11月3日と10日に1、2回戦を行い、残った16チームにJリーグの16チームが加わって3回戦以降が戦われる。その3回戦が、「新大会」の間にはさまるように、11月17日に行われるのだ。
昨年もチャンピオンシップの2試合が天皇杯1回戦をはさむように行われ、横浜マリノスは主力の多くを休ませ、若手を入れたチームで天皇杯を戦った。
天皇杯は日本サッカー協会にとって最も重要な大会である。トップリーグに所属するがゆえに「シード」され、予選なしに天皇杯に出場する権利を得たチームにとって、その試合を「最強チーム」で戦うのは、最低限の義務のはずだ。
ことしもそんな事態が起きないと誰が言えるだろうか。また「新大会」の存在が、協会創立75周年を記念して大改革された天皇杯自体の盛り上がりに水をさすおそれもある。
こんな時期にこんな「新大会」を開催する意味がどこにあるのか。協会も、どんな「見識」をもって開催を認め、そればかりかJリーグとともに「主催者」に名を連ねているのか。
優勝賞金は5000万円、賞金総額9000万円だという。その賞金を、1年間の応援のお礼としてそっくりチャリティに回すという趣旨ならわかる。そうでないのなら、Jリーグ始まって以来の愚行だ。
(1996年3月19日)
「開催概要」によると、11月9日土曜日に閉幕する今季のリーグ戦に引き続いて、翌週の水曜日、13日と、1週間後、20日に大会を開催する。リーグの上位2チームと、夏に開催される「Jリーグヤマザキナビスコカップ」の優勝・準優勝の2チーム、計4チームが出場し、この両日に「準決勝」と「決勝」を戦う(会場未定)とある。
問題点は2つある。第一にこの大会の開催が「リーグ戦」の価値を落とす危険性。そして第二に、天皇杯との関係だ。
Jリーグは今季「1ステージ制」をとる。2ステージの優勝チームが「チャンピオンシップ」を戦うという過去3年間のシステムを捨て、リーグ戦の成績だけで優勝を決める。年間を通じて最高の成績を残したチームが、そのまま「チャンピオン」になるのだ。
特別のことではない。これが「リーグシステム」の常識なのだ。優勝を勝ち取るためには、長期間コンディションを保つ努力と、目の前の1試合1試合をそれぞれ百パーセントの力で戦い抜く粘り強さが必要だ。それは短期間に波に乗って勝ち取る形式の大会より数倍の努力を要する。それゆえに、どの国でもリーグ優勝チームがその年の「チャンピオン」として最高の敬意を払われるのだ。
そうした思いで勝ち取った「チャンピオン」の重みが、今回発表された「新大会」によって消されてしまうのではないか。一発勝負でこの大会を制するチームがまるで「真のチャンピオン」のように見られ、本当の「Jリーグチャンピオン=日本チャンピオン」がかすんでしまう。
それは当然、マスメディアの責任でもある。「統一チャンピオン」のような表現を使って大げさに盛り上げるのが、メディアの常道であるからだ。しかし今回のは、意識的にそうした方向にメディアをミスリードしようとしているようにさえ思える。ニュースリリースには「1996Jリーグを締めくくる最後の決戦」とうたわれているのだ。
ことし天皇杯は大改革され、80チームが参加する。Jリーグを除く64チームで11月3日と10日に1、2回戦を行い、残った16チームにJリーグの16チームが加わって3回戦以降が戦われる。その3回戦が、「新大会」の間にはさまるように、11月17日に行われるのだ。
昨年もチャンピオンシップの2試合が天皇杯1回戦をはさむように行われ、横浜マリノスは主力の多くを休ませ、若手を入れたチームで天皇杯を戦った。
天皇杯は日本サッカー協会にとって最も重要な大会である。トップリーグに所属するがゆえに「シード」され、予選なしに天皇杯に出場する権利を得たチームにとって、その試合を「最強チーム」で戦うのは、最低限の義務のはずだ。
ことしもそんな事態が起きないと誰が言えるだろうか。また「新大会」の存在が、協会創立75周年を記念して大改革された天皇杯自体の盛り上がりに水をさすおそれもある。
こんな時期にこんな「新大会」を開催する意味がどこにあるのか。協会も、どんな「見識」をもって開催を認め、そればかりかJリーグとともに「主催者」に名を連ねているのか。
優勝賞金は5000万円、賞金総額9000万円だという。その賞金を、1年間の応援のお礼としてそっくりチャリティに回すという趣旨ならわかる。そうでないのなら、Jリーグ始まって以来の愚行だ。
(1996年3月19日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。