サッカーの話をしよう
No172 加茂・日本代表 ワールドカップへの試金石
「第11回アジアカップ決勝大会」の開幕が目前に迫った。4日、アブダビで行われるアラブ首長国連邦(UAE)×韓国戦を皮切りに、UEA国内の3都市を舞台に12チームが激突する。
来年のワールドカップ・アジア予選の勝ち抜きを最大のターゲットとする加茂・日本代表にとっては、初めてアジアの強豪とタイトルをかけて戦う機会。予選を見通すうえで、大きな意味をもった大会だ。
ことし2月、私はオーストラリアのシドニーから南へ数10キロ下ったウーロンゴンという町にいた。2年目を迎えた「加茂・日本」の「始動」のトレーニングを見るためだった。
1年目は、「プレスディフェンス」の動きを覚え、それを試合で実行するのに精一杯だった、「2年目はその守備をベースに攻撃のパターンを増やす」(加茂監督)のが目標。そのためのキャンプだった。
選手間の距離をせばめ、ボールをもっている相手に数人でプレッシャーをかけて奪う「プレスディフェンス」は、ボールを奪ったとき逆に相手からもプレッシャーをかけられやすいという課題をかかえている。そこから抜け出すには、素早い判断と、高度に組み立てられたコンビネーションが必要となる。
ウーロンゴンでの日本代表は、この課題をクリアするためにいくつかの攻撃パターンを繰り返し練習していた。「攻撃は、ある程度までパターン化し、最後のところで選手のひらめきに任せる」というのが、加茂監督の持論だからだ。
このキャンプ後、日本代表は見違えるように得点力をつけた。ポーランドに5−0で大勝し、メキシコには0−2から大逆転で3−2の勝利。そして8月にはウルグアイを5−3という派手なスコアで下した。
95年には得点の多くがフリーキック、コーナーキックなどの「リスタート」から生まれていた。しかし96年の得点は「流れ」のなかからものが飛躍的な増加を示している。ウーロンゴンから始まった攻撃のパターンづくりが、見事に実を結んでいるのだ。
「ことし9試合をこなしたが、力は徐々に上がっている。回を重ねるごとに選手の自覚が深まり、チームは伸びつつあることを実感している。チームづくりはほぼ予定どおりだ」
10月のチュニジア戦の後で、加茂監督は自信の表情を見せた。
アジアカップでは、守りを固めてくる相手をどう切り崩すかが課題となる。どの国も、日本がことし数々の強豪を倒し、攻撃力が大きく上がったことを知っている。グループリーグで当たるシリア、ウズベキスタン、中国は、いずれもまず日本の攻撃をくい止めようとするだろう。
そういう相手と戦った経験がほとんどない現在のチームが、どう対処し、攻撃を切り開いていくか。それはまた、来年のワールドカップ予選の「シミュレーション」といっていい。
チュニジア戦の数日後、加茂監督とゆっくり話す機会があった。別れ際に、加茂監督は力強い口調でこう言った。
「まかせておいてくれ」
「アジアカップですか」
思わずそう聞いた。
「いや、ワールドカップ予選のことだよ。これからいろいろとあると思うが、最終的にはチームをまとめて、必ず勝ち抜いて見せるから」
アジアカップを戦いながらも、加茂監督の目は常にワールドカップ予選に向けられている。今回のアジアカップを、私たちもまた、ワールドカップ予選を念頭に置いて見ることを求められているのだ。
(1996年12月2日)
来年のワールドカップ・アジア予選の勝ち抜きを最大のターゲットとする加茂・日本代表にとっては、初めてアジアの強豪とタイトルをかけて戦う機会。予選を見通すうえで、大きな意味をもった大会だ。
ことし2月、私はオーストラリアのシドニーから南へ数10キロ下ったウーロンゴンという町にいた。2年目を迎えた「加茂・日本」の「始動」のトレーニングを見るためだった。
1年目は、「プレスディフェンス」の動きを覚え、それを試合で実行するのに精一杯だった、「2年目はその守備をベースに攻撃のパターンを増やす」(加茂監督)のが目標。そのためのキャンプだった。
選手間の距離をせばめ、ボールをもっている相手に数人でプレッシャーをかけて奪う「プレスディフェンス」は、ボールを奪ったとき逆に相手からもプレッシャーをかけられやすいという課題をかかえている。そこから抜け出すには、素早い判断と、高度に組み立てられたコンビネーションが必要となる。
ウーロンゴンでの日本代表は、この課題をクリアするためにいくつかの攻撃パターンを繰り返し練習していた。「攻撃は、ある程度までパターン化し、最後のところで選手のひらめきに任せる」というのが、加茂監督の持論だからだ。
このキャンプ後、日本代表は見違えるように得点力をつけた。ポーランドに5−0で大勝し、メキシコには0−2から大逆転で3−2の勝利。そして8月にはウルグアイを5−3という派手なスコアで下した。
95年には得点の多くがフリーキック、コーナーキックなどの「リスタート」から生まれていた。しかし96年の得点は「流れ」のなかからものが飛躍的な増加を示している。ウーロンゴンから始まった攻撃のパターンづくりが、見事に実を結んでいるのだ。
「ことし9試合をこなしたが、力は徐々に上がっている。回を重ねるごとに選手の自覚が深まり、チームは伸びつつあることを実感している。チームづくりはほぼ予定どおりだ」
10月のチュニジア戦の後で、加茂監督は自信の表情を見せた。
アジアカップでは、守りを固めてくる相手をどう切り崩すかが課題となる。どの国も、日本がことし数々の強豪を倒し、攻撃力が大きく上がったことを知っている。グループリーグで当たるシリア、ウズベキスタン、中国は、いずれもまず日本の攻撃をくい止めようとするだろう。
そういう相手と戦った経験がほとんどない現在のチームが、どう対処し、攻撃を切り開いていくか。それはまた、来年のワールドカップ予選の「シミュレーション」といっていい。
チュニジア戦の数日後、加茂監督とゆっくり話す機会があった。別れ際に、加茂監督は力強い口調でこう言った。
「まかせておいてくれ」
「アジアカップですか」
思わずそう聞いた。
「いや、ワールドカップ予選のことだよ。これからいろいろとあると思うが、最終的にはチームをまとめて、必ず勝ち抜いて見せるから」
アジアカップを戦いながらも、加茂監督の目は常にワールドカップ予選に向けられている。今回のアジアカップを、私たちもまた、ワールドカップ予選を念頭に置いて見ることを求められているのだ。
(1996年12月2日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。